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COLUMN コラム

2024.06.07

CASE Ultra活用事例の紹介

エーザイ株式会社様

CASE Ultraを活用した新規毒性評価システム「YosAI」の開発

 

エーザイ株式会社様(以下エーザイ)は、創薬における新規技術基盤構築に向けて、in silico(コンピュータを用いたデータ分析、シミュレーションなどの様々な評価方法)やArtificial Intelligence(AI:人工知能)を活用した毒性評価システム体制の確立をめざしていらっしゃいます。 そのためには、膨大な毒性データ(社内外化合物におけるAmes試験データなど)やヒューマンエビデンスに基づくエーザイ独自の知識、例えば、自社物質の化学構造上の特徴や生物学的な活性との相関関係を活用する必要があります。今回は、昨年発表されましたエーザイオリジナルの変異原性予測システム「YosAI」についてグローバル安全性研究部の方々からお話をお伺いいたしました。

 

CASE Ultraの導入目的

医薬品開発では、候補化合物やその代謝物の潜在的変異原性を検出するため、in silicoの活用が有効です。またICH M7ガイドラインでは、医薬品不純物の変異原性の評価に、Ames変異原性試験の代わりに(定量的)構造活性相関((quantitative)  structure activity relationships (Q)SAR)手法の利用が許容されており、更に同ガイドラインでは、知識ベースと統計ベースの2つの異なったAmes変異原性(Q)SARモデルの利用が推奨されています。MulitiCASE社のCASE Ultraは、2つの(Q)SARモデルを用いて、化合物の潜在的な生物活性と毒性を有する部分構造(Toxicophore)に基づいて評価します。これら両(Q)SARモデルが搭載され、FDAの協力を得て開発された信頼性の高い予測ソフトウェアのため、CASE Ultraを導入しました。

CASE Ultraの結果一例

 

遺伝毒性予測システム「YosAI」とは

YosAIは(Q)SARソフトウェアCASE Ultraに、テキストマイニング技術、自社開発化合物の警告構造等を追加・統合させた、エーザイオリジナルのAI変異原性予測システムです。

その特徴として、(1)テキストマイニング技術を使って抽出した公共データベースのAmesデータと社内Amesデータを統合して作成したエーザイオリジナルデータベース、(2)社内Amesデータに基づく警告構造(開発候補品の化学構造に特有な警告構造や医薬品の基本骨格に汎用される含窒素複素環等)、(3)エーザイオリジナルデータベースから類似した化学構造を検索する機能、(4)OECD Tool boxから抽出したDNAとの結合能力等の特徴量データの搭載,(5) 機械学習の活用(k-近傍法や人工ニューラルネットワーク)により市販ソフトウェアより総じて高い変異原性予測能を示します。

遺伝毒性予測システムYosAIの特徴

医薬品候補化合物やその代謝物、医薬品不純物の変異原性を予測するには、in silicoの活用が有効です。しかし、市販の予測ソフトウェアに搭載されたデータベースは、一般化学物質や環境化学物質等の文献情報や公開データリストが中心であり、医薬品/医薬類似物質とは化学的性質(ケミカルスペース)が異なるものが多いため、予測性能には限界があり、医薬品化合物に対する予測精度の改善が喫緊の課題でした。

そこで、エーザイはIT企業であるMultiCASE社及びSBX社と共同で、『創薬探索段階にて変異原性警告構造の同定』及び『医薬品不純物のICH M7ガイドラインに準ずる医薬品不純物の変異原性評価』を目的に2017年,YosAI開発に着手しました。開発当初はGlobal (Q)SARによる予測でしたが、特定のケミカルクラス(芳香族アミンや芳香族ボロン酸等)に対してはLocal (Q)SARによる予測を行うフローを設けたことで予測能を向上させる改良を続けています。

遺伝毒性予測システムYosAIの概要

 

CASE UltraをYosAIに使用した理由

YosAI開発にあたっては、変異原性予測の向上のため、化合物の化学構造式情報と良質な変異原性データに基づくデータベースを構築すると共に、データ検索やデータマイニングの機能を整備・強化することが必要と考ました。

近年、CASE Ultraの変異原性予測精度が向上しており、その理由はCASE Ultraの以下の機能によります。

 

以上の点を考慮して,YosAIの開発にCASE Ultraを使用しました。

もっとCASE Ultraについて知りたい方はこちら

 

YosAIの効果

2020年に行った、当社登録の2,230化合物(変異原性化合物:678件、非変異原性化合物:1,562件)を用いた、CASE UltraとYosAIそれぞれの予測結果の比較を以下に示します。

CASE Ultra(統計ベース型モデルのGT1_BMUTと知識ベース型モデルのGT_EXPERT)において、どちらかのモデルによって陽性と予測された場合は最終的に陽性,両モデルで陰性と予測された場合は最終的に陰性とした場合、Sensitivity(Ames陽性化合物をin silicoで陽性と予測する割合)は56%、Specificity(Ames陰性化合物をin silicoで陰性と予測する割合)は70%、Accuracy(Ames陽性/陰性化合物をin silicoで正しく予測する割合)は65%でした。一方で、YosAIはSensitivityが77%、Specificityが73%、Accuracyが74%であり、YosAIの予測精度は使用したCASE Ultraと比較して約10〜20%向上したことが分かりました。

予測精度が向上した理由としては、2018年からMultiCASE社と共同で、自社化合物に特異的な新規警告構造を作製しCASE Ultraへ登録したこと,統計ベース型モデルに登録されている警告構造の中で陽性確率が低い警告構造をCASE Ultraから削除をしたことです。その結果、false positiveとfalse negativeが減少し、Sensitivity、SpecificityおよびAccuracyの3つの指標がいずれも70%以上と予測精度が改善されました。このような作業を継続して行うことにより、(Q)SAR評価システムの機能を改善させていき、2023年時点ではさらに精度が向上しました(YosAI バージョン23.07.2)。

 

各フェーズにおけるYosAIの活用について

YosAIは、当社における研究開発の全フェーズ横断的に貢献しています。早期探索フェーズでは、数千の仮想化合物を解析し、変異原性リスクの低い化学構造のリード化合物を選択したプロジェクトもあります。開発フェーズでは、ICH M7ガイドラインに要求される医薬品不純物における(Q)SAR変異原性評価として、複数のプロジェクトにおける合成中間体、試薬、分解物等、数百化合物を解析しています。また製剤開発では、包装材料の溶出試験で溶出物として検出された化学物質の変異原性評価に利用しています。CASE Ultraは、規制当局において医薬品や化学物質に対する安全性評価のための(Q)SAR毒性予測ツールとして使用されているため、CASE Ultraを利用したYosAIの結果は、参考資料として規制当局への承認申請や照会事項対応として利用が可能と考えられます。

 

今後の展開

近年の安全性評価のおいては,実験動物の代わりに既存データを利用して化学構造や各種物理化学的性質等から評価するin silico解析や培養細胞を用いたin vitro試験が普及し、少しずつ実験動物代替法への移行が進んでいます。エーザイでは、YosAIの開発を皮切りに、社内外の様々な非臨床安全性データや毒性メカニズムに基づく毒性評価を可能とするAI Platformの構築を目指し、「副作用が少ない薬」を迅速に患者様に提供する毒性評価システム体制整備に取り組んでいます。

エーザイで構築したYosAIの精度をより向上させるためには、社内外におけるAmes試験データを更に収集し、拡充されたデータベースを用いて新たな警告構造の構築や既存の警告構造の修正を行うことの繰り返しが必要と考えます。実際,直近では、予測精度が低い化学構造(芳香族アミン類や芳香族ボロン酸骨格など)を特定し、それら特定の化学構造に対するlocal (Q)SARモデルの開発に取り組みました。

エーザイのビジネスパートナーのMultiCASE社は、最近、化合物リスク評価のための新しい計算アプローチを用いたソフトウェア“QSAR Flex”を開発しました。QSAR Flexは、機械学習とQSARに基づいた化合物の物性値と複雑な毒性の予測が可能で、ニトロソアミン類不純物のリードアクロスや生態毒性の評価などをサポートでき、今後はQSAR Flexの利用も期待されます。

 

参考文献

  • Shinada NK, Koyama N, Ikemori M, Nishioka T, Hitaoka S, Hakura A, Asakura S, Matsuoka Y, Palaniappan SK: Optimizing machine-learning models for mutagenicity prediction through better feature selection. Mutagenesis. 2022 Oct 26;37(3-4):191-202.
  • N. Koyama and A. Sassa: Analytical technologies to revolutionize the environmental mutagenesis-and genome- research -from the basics to the cutting-edge research-: the Open Symposium of the Japanese Environmental Mutagen and Genome Society (JEMS), 2022. Genes Environ. 2023 Mar 9;45(1):9.
  • Acharya S, Shinada NK, Koyama N, Ikemori M, Nishioka T, Hitaoka S, Hakura A, Asakura S, Matsuoka Y, Palaniappan SK : Asking the right questions for mutagenicity prediction from BioMedical text. NPJ Syst Biol Appl. 2023 Dec 18;9(1):63.

 

YosAIの開発に関わった方

グローバル安全性研究部(元エーザイ)の小山 直己様がリードとなり、同研究部からは羽倉 昌志様、倉上 真樹様と朝倉 省二様が、Deep Human Biology Learning 筑波サイトマネジメント室の池森 恵様、エマージングモダリティG部の西岡 大貴様と比多岡 清司様が開発に深く関与されました。

 

関連リンク

エーザイ株式会社様YosAI紹介ページ

毒性予測ソフト:CASE Ultra

 

 

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